コロナ禍を経て、ワインの価格は、一段と高くなっていて、気軽に飲むことの出来るワインがだんだん減ってきているように感じます。一方で、2023 年から、2024 年になると、「ワインの価格が下がってきた、ワインが余っている」というニュースを、少しづつ聞くようになってきました。
例えば、「高級ワインの国際価格が下がっている。高騰を続けていた指標価格は 1 年で 1 割以上安くなった。世界各国の金利上昇や紛争が、投資家や富裕層の心理を冷やした。国内では 1 本数万円から 100 万円以上するような高級ワイン。複雑で微妙な味わいは投資にも当てはまり、買い手を翻弄しているようだ。」 (日経新聞、2024 年 4 月 10 日) と言う記事やニュースが聞かれるようになりました。
しかしながら、店頭で販売されるワインの価格は、決して下がっておらず、2024 年 10 月においても、寧ろ徐々に値段が上がっています。そこで、ワインの価格は、何によって決まってくるのか、価格上昇要因を中心に考えてみました。
ワイン生産者やワインそのものの評価上昇
ワイン生産者やワインそのものの評価が高まると、ワインの値段は上がる傾向にあります。例えば、特定のワインの品質が目覚ましく向上したり、造り手の努力が実り、素晴らしいワインを一貫して生み出すようになった結果、著名なワイン評論家が、特定のワインを絶賛したり、メディアや雑誌が高得点を付けたりする場合です。生み出されるワインの品質に起因するものが多く、ワインの価格を形成する最も健全な要因と言えます。
ぶどうの作柄
その年のぶどうの作柄によって、生産されるワインの量が変動し、ワインの価格が上下する要因になります。また、作柄がとても良い年は、しばしば、「グレート・ヴィンテージ」と呼ばれ、生産量が多くても、美味しいワインが多くなる結果、ワインの価格が高くなる傾向にあります。ぶどうの作柄について、例えば、2010 年代は、世界の主要産地にて、総じて、2010 年、2016 年、2018 年、2019 年の作柄が良く、作柄に恵まれた年のワインは、人気があります。一方、実力のある生産者は一貫して優れたワインを生み出すと考え、敢えて、割安な作柄の悪い「オフ・ヴィンテージ」を購入される方々も見られます。
ワイン需要の拡大
ワインの需要全体が拡大したり、特定の産地や格付けのワインについて、引き合いが強くなるとワインの価格は上昇します。例えば、2010 年~ 2017 年にかけて、中国のワイン需要が大きく拡大し、ボルドーやブルゴーニュのプレミアム・ワインを主に富裕層が競うように買い求めました。その結果、ボルドーやブルゴーニュのワインは、値段が上がり続け、なかなか手の届かない値付けになりました。
インフレの進展
コロナ禍以降、世界的なインフレが進んでいます。コロナ禍をきっかけに離職された方々が、働き手として戻って来ず、人件費が上がっていること、ウクライナでの戦争や中東情勢の悪化により石油・天然ガス価格が上昇したこと、世界的な物資の輸送に長距離・長時間を要するようになったこと、コストのかかる脱炭素を進めた結果、電気代などが上昇していることなど複合的な要素が重なっています。これは、ワインの生産者にとっても同じであり、ワインの価格にコスト上昇分を転嫁するため、ワインの価格が全体的に上昇しています。
為替市場での円安
日本の場合、多くのワインを輸入しているため、円安になると、ワインの輸入価格が上昇し、店頭で販売されるワインの価格も上昇します。ワインの輸入事業者さんは、ワインを現地で買い付けて、低温コンテナに纏めて、日本まで船便で運び込みますので、現地買い付けから日本への到着まで、おおよそ、3 ~ 6 ヶ月くらいかかります。そのため、ワインの輸入価格に為替が反映するには、足元の為替と言うよりも、数か月から半年くらい前の為替が反映する傾向があります。また、生産者さん・輸入事業者さんとも、為替の影響を緩やかに価格転嫁する傾向があるため、店頭におけるワインの価格には、じわじわと反映する傾向にあります。
このように、様々な要素によって決まるワインの価格について、近年は、とりわけ、ワインの価格が高くなる要素が沢山あったと言えます。一方、ワインの価格が高くなった結果、需要が減少していると聞きます。また、行き過ぎた価格は修正されるものと考えられます。このように考えると、世界的なインフレが落ち着けば、ワインの価格も落ち着くかもしれません。しかしながら、値段を払う価値のあるもの、美味しいもの、感動的なものは、やがてワイン全体の価格が落ち着いてきたとしても、なかなか変わらないかもしれません。未来を予測する、とりわけワインの価格を予測するのはとても難しく、いつも、ほとんど当たらないような気がしています。ただ、頭の中で、未来の価格を思案したり、この造り手は、将来、凄い評価を得るだろうと想像したりするのは、楽しいことだと感じますし、お気に入りの造り手さんのワインが割安なときは、どんな時でも、とても嬉しいものです。