ドイツワインの歴史 (18世紀~)

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糖度による分類

18 世紀頃までに、ドイツにて栽培が盛んになったリースリングは、涼しい 10 月の間に晩熟する高貴品種であり、冷涼で湿気の多い醸造所で発酵させる場合、ぶどう果汁の有する自然の糖分が完全にアルコールに転換されるとは言えず、ワインにはいくらかの残糖が存在することになります。残糖の存在するワインの中には、翌年の春か夏には、みずみずしく、素敵な味わいになっているものもあり、かなりの量の、他方、ワインの味わいにとっては良い甘みを備えていました。

「スイートでスムースとは、当時はセクシーと同じ意味であった。もっともセクシーなワインは、飾り戸棚、つまりカビネットの中に納められ、1825 年以来、『カビネット・ワイン』として知られるようになった。それは、今日、われわれが、『レゼルヴ』と呼ぶのに相当していたようである。」 (シュテファン・ラインハルト氏) と言われるように、とりわけ補糖をせずに、発酵による糖分のアルコール転換を経ても甘味が残るワインは、重宝されてきました。

ドイツにおける貴腐ワインの起源は、日照量の少ないドイツにあって、晩熟品種であるリースリングの糖度を充分に上げるため、収穫を 10 月まで遅らせるようになり、収穫されるぶどうに貴腐菌が付くようになったのではないかと推測されています。実際、18 世紀中ごろには、ラインガウにて、過熟ぶどうと貴腐ぶどうのみからのワインが造られるようになりました。

1775 年、「シュロス・ヨハニスブルク」のシュペトレーゼ誕生

これを更に品質的に洗練させたものが、18 世紀後半になって「シュペトレーゼ」として、生産されるようになります。最初のシュペトレーゼは、1775 年ヴィンテージの「シュロス・ヨハニスブルク」と言われています。おそらく貴腐ぶどうと思われる、遅摘みの腐敗ぶどうから造られたワインがあまりに素晴らしかったため、シュペトレーゼは、瞬く間に正当なスタイルとして認識されるようになりました。

更なる洗練とアウスレーゼなどの誕生

19 世紀になると、腐敗または貴腐ぶどうを一粒ずつふどう房から摘み取ることで、遅摘みによるぶどうを用いた甘口ワインを更に洗練させていきます。今日の収穫されたぶどうの糖度に応じて分類される「アウスレーゼ」、「ベーレンアウスレーゼ」、「トロッケンベーレンアウスレーゼ」に通じるカテゴリーが生みされていきました。とくに「シュロス・ヨハニスブルク」では、1820 年以降、スタイルごとに異なる封蝋をかぶせ、差別化が図られました。

また、1858 年には、凍ったぶどう果実から造られるワインである「アイスヴァイン」が登場し、ドイツ・ワインに新たなカテゴリーが加わりました。

ドイツワインの評価上昇

1834 年にドイツ関税同盟が成立すると課税が均等化することになり、最高峰のワインが域内で自由に移動するようになります。ワイン産地間に競争が生まれ、より良質なワインは、高い価値が付くようになります。ドイツからは、ラインガウ、ラインヘッセン、ファルツ、モーゼルから卓越したワインが生み出され、1920 年頃までは、ドイツのリースリングは、欧州において、シャンパーニュやボルドーに比肩する評価を得ていました。

ドイツ・ワイン法の成立と混乱

しかしながら、第一次大戦後のハイパー・インフレなど経済の混乱、世界大恐慌、第二次世界大戦といった混乱の中心地であったドイツにおいて、ワイン産業は衰退し、ワインの評価も低迷していきました。また、1971 に成立したドイツ・ワイン法は、化学検査を基本として、原産地やワインの個性が反映されなくなり、結果的に、生産される 98 % のワインが、最上級格付けである「プレディカーツヴァイン」と 2 位の格付けである「クヴァリテーツヴァイン」に認定されました。採算性の低いワインの立て直し、ドイツ・ワインの他国産ワインと比較した時の優位性を示す目的での格付け制度だったものの、逆に、ワインのラベルから「ワインの真の品質を推論するすべはない。」 (シュテファン・ラインハルト氏) という状況を招いて、却って混乱を招き、ドイツ・ワインの市場評価を高めるのに役立ちませんでした。

糖度からテロワールへの動き

「ドイツ・ワイン法によると、歴史的に評価の高い急斜面で手摘みされたリースリングにも、ジャガイモ畑で機械摘みされた量産型ワインにも、機会の平等が保証されている。しかしそこに消費者の姿はない。政治的に正しいのかもしれないが、ワイン愛好家にとっては不幸なことである。」 (シュテファン・ラインハルト氏) という状況になったドイツ・ワインは、消費者にとって、価値判断基準となる産地・品質・個性といった要素が不明瞭になり、品質は偶然に左右されるようになってしまいました。また、化学検査といってもほぼ糖度のみが尺度であり、原産地・個性・競争を否定するドイツ・ワイン法について、「ソーセージ法」と揶揄する論評なども見かけます。

このような、ドイツ・ワインに関する混乱を打ち消そうと、1980 年代より、「ドイツで最も優れたぶどう畑に、それに値する名声の回復」「品質向上とドイツ産辛口ワインの名声回復」「自然の残糖を保持するワインについて、等級制度の見直し」を目的とする VDP (Verband Deutscher Praikatsweinguter) の活動などが活発になります。ドイツ・ワインの価値基準を見直す動きは、その多くが、ぶどう畑との調和のもとで育つぶどう樹が、土壌・気候を明確に反映した、個性豊かなワインを生み出すとする「テロワール」の概念を軸にしたものであり、現在のドイツ・ワイン法とは一線を画す評価軸です。

ドイツ当局は、VDP を始めとする「テロワール」を重視する評価軸を構築することについて、検討を開始しており、ドイツ・ワイン法は改正に向けて議論が進んでいると言われ、消費者目線に即した、新しい評価軸が生み出されると期待されています。

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