(フィロキセラ禍前)プロヴィニャージュによるぶどう樹の繁殖
フィロキセラの蔓延によって、ぶどう樹は、フィロキセラに耐性のあるアメリカ産台木に挿し木をして、育てられています。フィロキセラ禍以前に遡るとぶどう樹の繁殖は、プロヴィニャージュと呼ばれる方法が採用されていました。プロヴィニャージュとは、元のぶどう樹から伸びた新芽 (プロヴァン) が地面に着いたところで土をかぶせると、そこから新しい根が生じ、新しい樹になるという性質を利用したものです。
プロヴィニャージュは、ガーデニングをする人の多くが、今でもいろいろな灌木で行っています。プロヴィジャーニュの手法によるぶどう畑の平均樹齢を推測することは難しいけれども、最も樹齢が高いものは、300 年を超えていたと思われるというレポートがあります。
現在の古樹との比較
現在、例えば、樹齢 60 年前後を古樹とすると、古樹からのワインには独特なクリーミーさと深みが感じられます。しかし、フィロキセラ禍を経て、アメリカ産の台木に挿し木をする手法が一般になるなかで、フィロキセラ禍以前のワインを味わうことができた人々は、私たちが、現在味わっている古樹のワインですら遠くに及ばないだろうと言われています。
密植の効果
現在、標準的な植栽の密植密度は、1 ha あたり 1 万本と言われていますが、古いぶどう畑では、2 ~ 3 万本だっただろうと言われています。現在と、恐らく植え方が異なるため一様に言えませんが、密植を行うと、根同士が競合し、その結果、根がより深く、母岩まで到達するほどになり、より複雑味のあるぶどう果実が得られると考えられています。
自根や密植の実験
ブルゴーニュやシャンパーニュなどで、新しい試みとして、接木しないぶどう樹を植え、どれくらいフィロキセラに耐えられるかを見る、或いは、現在の台木に標準的な 1 万本を超えるぶどう樹で植栽して試すなどが実験的に行われ始めています。実際、密植について、ブルゴーニュにて複数の生産者が、実験的な試みを実施していて、密植させたぶどう樹から生産されるワインは、より複雑味や濃密さを感じると言う興味深いレポートが出てきています。
ルフレーヴやジャック・セロスによる自根栽培の実験
例えば、自根栽培の実験として、ルフレーヴは、AC ブルゴーニュの畑に自根と接木したものを 8 列づつ植えて、実験をしています。自根の効果は明確と言います。「ブルゴーニュ AC が村名クラスの品質になる。口の中でふくよかな存在感があり、流れ出すような広がりを感じる。世界中の畑を自根にしたら、ワインの品質は上がる。接木の業者は職を失うだろうが。」と言います。
他方、やはり自根での栽培にはフィロキセラによる影響も報告されています。例えば、シャンパーニュのジャック・セロスは、 自根の樹の方が白亜質土壌に適していると考えて、実験的な栽培をしているものの、すぐにフィロキセラに犯されてしまって効果が分からないと言います。
ユベール・ラミーによる密植の実施例
また、密植の実施例として、サン・トーバンのユベール・ラミーは、プルミエ・クリュのデリエール・シェ・エドゥアールの一部で、シャルドネを 2.8 万本 / ha という非常に高い植栽密度で植えることを始めています。ぶどう樹同士の競合が激しいため、一株当たり僅か 2 房、100 g のぶどうしか収穫されず、その結果、生産されるワインは味わいが凝縮していきます。生産されるワインは、アルコール度数と酸が高まり、エネルギーが詰まっているようなスタイルに仕上っていると評価されています。オリヴィエ・ラミーの挑戦は、昔への回帰ではなく、「よりテロワールを表現するために密植を試している。酸もアルコール度も上がるが、それが狙いではない。これは知的なワインだ。」と言い、密植への自信を深めており、密植を実施する面積を徐々に拡大しています。