ブルゴーニュの主力品種、ピノ・ノワールとシャルドネ
ブルゴーニュにおいて、圧倒的比率を占めるぶどう品種は、ピノ・ノワールとシャルドネです。ブルゴーニュでは、赤・白・ロゼ・発泡性ワインが生産されており、何れも、ピノ・ノワールとシャルドネが圧倒的な主力品種であり、他の品種が、補助的な役割を果たしています。
地域により異なる主力品種
ブルゴーニュにおけるピノ・ノワールとシャルドネの栽培状況は、地域によって異なります。コート・ド・ニュイ (Cote de Nuits) では、ピノ・ノワールの単一栽培と言っても良いほどの状況であり、ぶどう畑の 96 % に赤ワイン用のピノ・ノワールが植えられ、白ワイン用のシャルドネなどのぶどう畑は、僅か 4 % に過ぎない状況です。
ブルゴーニュのコート・ドール (Cote d’Or) を南下していくにつれ、次第にシャルドネが優勢になり、コート・ド・ボーヌ (Cote de Beaune) においては、シャルドネが 40 % となり、コート・ド・ボーヌの南に位置するコート・シャロネーズ (Cote Chalonnaise) 地区は、シャルドネの比率が 30 %、マコネー (Maconnais) 地区では、シャルドネの比率が 80 % を占めています。
また、コート・ドールの北西に位置するシャブリ (Chablis) では、シャルドネが栽培面積のほぼ 100 % を占めます。
ガメイからピノ・ノワール、アリゴテからシャルドネへ
ブルゴーニュは、数世紀という長期に亘ってピノ・ノワールとシャルドネという品種を主力として用いて来た産地です。世界中で栽培されているぶどう品種は 1,000 種を超え、古代から続くワイン造りの長い歴史において、多くのぶどう品種は盛衰を繰り返してきましたが、ブルゴーニュは、数世紀に亘って、ピノ・ノワールとシャルドネという同じ品種を主力品種として用いて来た珍しい産地です。
しかしながら、ブルゴーニュにおいても、赤ワイン用のぶどう品種は、14 世紀までは、ピノ・ノワールよりもガメイが優勢であり、白ワイン用のぶどう品種は、19 世紀後半にフィロキセラによる被害が広がるまでは、シャルドネと共にアリゴテが広く栽培されていました。
フィリップ・ル・アルディの「ガメイ種禁止勅令」
ブルゴーニュにおいて、ピノ・ノワールが支配的なぶどう品種となるきっかけとなった出来事は、1395 年に、初代ブルゴーニュ公国の国王、フィリップ・ル・アルディが、「ガメイ種禁止勅令」発令したことです。フィリップ・ル・アルディは、ブルゴーニュの畑からガメイを引き抜いて、より高貴なピノ・ノワールを植えるよう奨励し、この勅令を契機に、ブルゴーニュにおける赤ワイン用のぶどう畑は、ピノ・ノワールに植え替えられていきました。
芸術とワインを愛するフィリップ・ル・アルディは、「ガメイは、育てやすくて収量が多く、ワインを量産できるものの、味わいは凡庸である」と言い、味わいの優雅なピノ・ノワール種を植えることを奨励、現在に至る赤ワイン用としてピノ・ノワールをほぼ単一品種で栽培するブルゴーニュの原型を構築した人物として知られています。そして、実際に、ブルゴーニュでは、ピノ・ノワールから、数々の世界最高峰と言える傑出した赤ワインが生み出されるようになります。
フィロキセラ禍とシャルドネへの植え替え
フィロキセラがブルゴーニュのぶどう畑に蔓延し、19 世紀後半に、大半のぶどう畑は荒廃して、ブルゴーニュにおけるぶどう栽培とワイン造りは衰退していきましたが、やがて、フィロキセラに耐性のある台木と接ぎ木によるぶどう栽培法が確立するにつれ、ブルゴーニュでもぶどう畑の再建が始まります。
しかしながら、ブルゴーニュ全体で、白ワイン用のぶどう品種として、ぶどう樹の植え替えを行う際に、多くのぶどう栽培農家は、シャルドネを選択し、アリゴテを選択しませんでした。シャルドネが、フィロキセラ禍後のぶどう畑再建に用いられた背景は、意外と単純であり、アリゴテよりも、生長が早いため、ぶどう栽培農家にとっては、早く収入を回復させ、ワイン造りを再開できるからだったと言われています。
フィロキセラ耐性のあるシャルドネに植え替えることは、収入の確保と安定化を考慮すれば、ぶどう栽培家にとって当然のことと言えます。ぶどう樹のシャルドネを用いた植え替えは、好条件や上級格付けのぶどう畑から優先的に始まり、アリゴテは、あまり立地の良くない、収穫まで年月がかかってもそれほど影響の大きくないぶどう畑に追いやられていきました。その結果、アリゴテから造られるワインの品質が落ちてしまいましたが、多くの人々は、アリゴテの能力自体が低いためだと勘違いしてしまったと言われています。
アリゴテによるブルゴーニュの素晴らしいワイン
本格的に造られたアリゴテのワインは、深みある芳香と味わいを特徴とする素晴らしいワインと言われています。ブルゴーニュで生産される素晴らしいアリゴテのワインとして、例えば、ドメーヌ・ポンソがアリゴテ種 100 % で造るブルゴーニュ唯一のプルミエ・クリュ (1er Cru, 一級畑) のワイン、「クロ・デ・モン・リュイザン」が挙げられます。
「アカシアの花が香り、アタックでは酸がイキイキとしているが、やがて口の中で豊満に変わる。」 (ブルゴーニュ、アペラシオン完全ガイド) と称賛され、複雑で力強く、美しい酸とミネラルを備えた「クロ・デ・モン・リュイザン」のワインは、グラン・クリュ (Grand Cru, 特級畑) に比肩する傑出した白ワインとして、極めて高く評価されています。