気象と土壌と共に、ワインの性質を決める三大要素の一つに、ぶどう品種が挙げられます。ワインの香りや味わいと質感を決める要素は、ぶどう品種による部分が大きく、ぶどう品種による要素に土壌が更なるニュアンスを加味します。
ボルドーでは、一般に、それぞれのワインやアペラシオンが持つ独自性は、どれか 1 品種のぶどう樹から生み出されるものではなく、幾つかのぶどう品種による様々なブレンドを通じて表現されます。ボルドーで栽培されているぶどう品種は、赤ワイン用では、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドー、マルベックであり、白ワイン用では、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、ムスカデルです。
フィロキセラ禍前のぶどう品種
18 世紀まで、ボルドーでどのような品種が栽培されていたかについての記述は殆ど無いようです。しかし、60 種類を超える多くの品種が栽培され、その中に、カベルネ・ソーヴィニヨンが含まれていたのは確かなようです。カベルネ・ソーヴィニヨンは、紀元前 3 世紀頃に、ガリア人のビトゥリゲス・ヴィヴィスキ族によって栽培されていたビトゥリカ種の子孫と言われていました。その後、カベルネ・ソーヴィニヨンの DNA 解析によって、カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランが自然交配して生まれた品種と判明してきました。カベルネ・ソーヴィニヨンという品種名は、「カベルネ」フランと「ソーヴィニヨン」ブランという両親の品種名を組み合わせた名前でもあります。
フィロキセラ禍が始まる直前の書物によると、ボルドーの左岸、オー・メドックとグラーヴのグラン・クリュでは、おおよそ、1/2 ~ 3/4 がカベルネ・ソーヴィニヨンであり、残りがメルローとマルベック、ボルドーの右岸地域、サン・テミリオン、ポムロールなどでは、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、マルベックが 1/3 づつという比率であり、シラー、ピノ・ノワール、プティ・ヴェルドー、カルメネールなどの品種も栽培されていました。
フィロキセラ禍によるぶどう品種淘汰
フィロキセラ禍後、ワイン生産者たちは、新しい接木方法、台木、そして、新しい商業環境に適応していった結果、ぶどう栽培の環境が劇的に変わります。全面的に消えて行った品種として、シラー、ピノ・ノワール、大幅に減少した品種として、マルベック、プティ・ヴェルドー、カルメネールなどが挙げられ、主にメルローの比率が高まり、現在のカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを主力とするぶどう品種の構成が出来上がりました。フィロキセラ禍を経て、ぶどう栽培を再開する際に、土壌やその土地の気候に最適なぶどう品種の選定が行われた結果、ぶどう品種の淘汰が一気に進みました。
赤白半々から赤ワイン主力の産地になる
ボルドーは、1970 年代まで、赤白半々の産地でした。その後、白ワイン用品種から赤ワイン用品種への植え替えが進み、現在は、生産量の約 90 % が赤ワインとなっています。ボルドーでは、メルローの栽培面積増加が続いており、現在、赤ワイン用のぶどう品種としては、メルロー 63 %、カベルネ・ソーヴィニヨン 25 %、カベルネ・フラン 11 %、その他 1 % という構成になっています。白ワイン用のぶどう品種としては、セミヨン 53 %、ソーヴィニヨン・ブラン 38 %、ムスカデル 6 %、その他 3 % という構成になっています。