ボルドーは、その気象条件や栽培しているぶどう品種のため、有機農法に転換する難しさがあり、フランスの他地域に比べて、ビオロジックやビオディナミなど有機農法への取り組みがゆっくりとしています。
湿度の高さ
海と川に近いボルドーの気候は、湿度が高く、年間の平均湿度は、東京と同じくらいか、東京を少し上回るくらい、日照時間も東京と同じくらいで、とりわけ乾燥し、日照に恵まれているとは言えない気候です。
その為、ウドンコ病やベド病などの真菌類による病害が発生しやすい土地です。2000 年代以降では2007 年、2008 年の成長期には、ベド病が広がり、銅を主成分とする抗真菌薬剤を散布して、被害の拡大を抑えています。
また、湿度の高い地域にて発生しやすく、貴腐ワインを生み出すボトリティス菌は、貴腐ワインを生み出すには必要なものの、灰色カビ病を引き起こし、ぶどう果実の質を低下させ、収量にも大きく影響します。
病害に弱い品種
エスカと呼ばれる病気は、ボルドーの主力品種であるカベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブランに多く見られると言われています。菌類が選定した切り口から入り、幹の中心部を海綿状にしてしまい、葉に白赤のまだら模様や果実に黒い斑点を生み、ぶどう樹を壊死させてしまう病気です。根本治療法がなく、フランスを中心に影響の大きいぶどう樹の病気であり、ボルドーでは影響が大きいと言われています。
ボルドーの有機農法
ビオディナミやビオロジック農法は、急速に広まっていますが、ボルドーは他の地域に比べて導入のペースがゆっくりです。湿度が高く菌類が繁殖しやすい、病害に弱いぶどう品種が主力であるなど、採算を考えると、真剣になかなか考えにくい状況なようです。
また、ビオディナミへの転換に苦戦する例も見られます。例えば、ポンテ・カネは、2004 年にビオディナミ転換を開始するも、2007 年に悪性のウドンコ病が広がり、従来の栽培方法に戻らざるを得ず、ビオディナミの認証取得は振り出しにもどってしまいました。そのため、ポンテ・カネがビオディナミの認証を取得したのは、2014 年と、10 年の歳月を必要としました。
各生産者の工夫
有機農法に不利な状況であっても、ボルドーの生産者たちは、小区画でビオロジックやビオディナミ農法を実験して導入したり、減農薬農法であるリュット・レゾネ農法を導入したり、工夫をしながら、徐々に有機農法は広まっています。
また、有機堆肥の使用、生態系を回復する取り組み、殺虫剤の使用中止など徐々に進めるなかでも、農薬に代わり得る有機農法に適合した手法なども開発されてきています。例えば、殺虫剤の代わりに、ぶどう畑にフェロモンの入った瓶を置いて、ぶどうの葉に卵を産む蛾の飛来を防ぐ手法などは、フランス国立農業・食料環境研究所 (INRA) とシャトー・クーアンが協力して開発した手法であり、1995 年には政府によって認可されています。
ボルドーの各生産者の中でも、所謂、「五大シャトー」のうち、2018 年にシャトー・ラトゥールがビオロジックの認証を取得するなど、徐々に有機農法への転換が進んでいます。有機農法への転換は、ボルドーにおいてはとりわけ難しさがあると言われますが、試行錯誤を繰り返しながら、取り組む生産者が増えてきています。